読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Shine Blog

桐生貴政という読み物。

父と癌

エッセイ

 

抗癌剤投与1日目。

 

入院している父に会社関係の方がお見舞いに来てくれた。

 

『誰にも言ってないのに!』という言葉とは裏腹に父の顔は嬉しそうだ。

 

父は職長として業務を請け負っているが、請負元の社長と会社の立ち上げから関わっていて、その人は請負元の営業を長く勤めていた人だ。

 

去年その会社から独立して会社を立ち上げ、取締役として活躍しているという話を後から聞いた。

 

私は少々の雑談をして席を外した。

 

ロビーで読書していると10分ほどで戻ってきて、私に名刺を差し出し『これ連絡先渡しておくから』と言い残し別れた。

 

お会いしたのは約20年ぶりだったが、ハツラツとしていて爽やかさな雰囲気は変わっていない。その日の帰宅後、お礼のショートメールを送った。

 

 

抗癌剤投与2日目。

 

入院がお盆と重なったこともあり、今日は姉2人に姪っ子2人、私と彼女の6人で一緒に見舞いにいった。

 

副作用も少なく、昼食も完食した親父は今日も元気だ。

 

大所帯だったので食堂に場所を移し、3才の姪っ子に”よしよし”される父を横目に見ているとショートメールが届いた。

 

昨日の返事で『自宅も近いから出来ることがあったら、本当に遠慮なく連絡ください』という旨のメールだった。

 

熱いものを感じながら、返信しようとしていると追加でメッセージが届いた。

 

 

『私も含め桐生さんの為なら何でもする連中ばかりですから』

 

 

涙が出そうになった。

 

家族と楽しそうに談笑する父に気づかれないように歯を食いしばる。

 

 

親父には苦楽をともにした仲間がたくさんいる。

 

それだけで十分な気がした。

 

 

久しぶりに集まった家族。嬉しそうな父。何気ない笑い声。

 

私はそんな幸せな景色を見ることができず、じっと遠くの空を見つめていた。

 

スポンサーリンク

Copyright © 2016 Shine.jp All rights reserved.